AI文字起こし
AI文字起こしの落とし穴。「全然苦しくないよ」が「死ぬ」に変換された話
研修も、申し送りも、会議も。録音してAIに文字起こしさせておけば、あとで見返せる。そう思って使いはじめた方は多いと思います。わたしも便利な道具だと思っています。
ただ、先日ちょっとした実験をして、背筋が寒くなりました。AIは「わかりません」とは言ってくれないのです。
熊本の方言を、2台のAIで文字起こししてみた
先日、天草(熊本)にお住まいの方とお話しする機会があり、その会話を2台のAI文字起こしツールで同時に記録してみました。
そのとき、相手の方がこうおっしゃいました。
な〜ん!こうすっとしゃがな いっちょんくるしんなか
意味は、こうです。
いやいや!こうすると、全然苦しくないよ
とても前向きな、明るい言葉です。ではAIは、これをどう書き起こしたか。
- 1台目のAI …… 「苦しい」
- 2台目のAI …… 「死ぬ」
「全然苦しくないよ」と言っていた方の言葉が、まったく逆の意味になって記録されました。しかも2台とも、それぞれ違う形で。
本当に怖いのは、間違えたことではありません
方言の聞き取りが難しいのは、仕方のないことだと思います。人間だって、初めて聞く方言は聞き取れません。
問題はそこではありません。AIが「聞き取れませんでした」と言わなかったことです。
人間なら「え、なんておっしゃいました?」と聞き返します。分からなければ分からないと言います。ところがAIは、聞き取れなかった部分を空欄にせず、いちばんそれらしい言葉に変換して、平然と書き出します。
できあがった文字起こしを見ても、そこが「聞き取れなかった箇所」だとは分かりません。ほかの正しく起こせた部分と、まったく同じ顔をして並んでいるからです。
間違いだと気づけない間違い。これがいちばん怖いところです。
もし、これが患者さんの訴えだったら
今回はたまたま、雑談の中の一言でした。笑い話で済みます。
でも、これが医療や介護の現場だったらどうでしょうか。
方言の強い高齢の患者さんが「いっちょんくるしんなか(全然苦しくない)」とおっしゃった。それが記録に「苦しい」「死ぬ」と残る。申し送りでその記録だけが伝わっていく——。
患者さんの言葉は、「なんとなく」で解釈してはいけないものです。だからこそ、記録する人には理解する力が必要になります。
すでに、こんな声が届いています
AI文字起こしを使ってみた方から、実際にうかがった声です。
- 「大事なところが、すっぽり抜けていた」
- 「要約がおかしい。言っていない内容まで書かれていた」
- 「方言の強い高齢者の話は、ほとんど聞き取れない」
- 「マスク越しの小声の相手は、まず拾えない」
- 「あとで見ればいいと思ったら、その場で全然聴いていなかった」
技術は年々良くなっていますから、聞き取りの精度は今後も上がっていくと思います。ただ、上の5つのうち、精度が上がれば解決するのは前半だけです。
いちばん危ないのは、最後のひとつ
「あとで見ればいいと思ったら、その場で全然聴いていなかった」
これは機械の性能とは関係のない話です。録音してあるという安心感が、その場で聴く集中力を奪ってしまう。
そして、あとで文字起こしを開いてみると、そこには一言一句が並んでいます。1時間の研修なら、1時間ぶんの文字です。そこから「で、大事なのはどこだったんだろう」と探しはじめることになります。
その場で聴いていないので、探す手がかりもありません。結局、最初から読み直すことになります。楽をしたつもりが、いちばん時間のかかるやり方を選んでしまっているのです。
AIにできること、できないこと
整理してみます。
AIにできること
- 録音する
- 音声を文字にする
- 文章を要約する
AIにできないこと
- あなたにとって何が大事かを判断すること
同じ研修を受けても、心に引っかかる場所は人によって違います。経験年数も、担当している患者さんも、明日やろうとしていることも違うからです。
「ここは自分に必要だ」と判断できるのは、その場で聴いているあなただけです。AIは、あなたが何に困っているかを知りません。
AI時代だからこそ、「理解しながら書く」
手書きのノートは、書ける量に限りがあります。だから、聴きながら「これは書く」「これは書かない」と選ぶことになります。
一見すると不便です。でもこの「選ぶ」という作業そのものが、理解する作業になっています。
そして自分の言葉で書き残したものは、頭に残ります。あとから見返しても、自分の言葉なので意味が分かります。一言一句の文字起こしを読み返すのとは、まったく違う体験です。
AIに任せるべきことは任せていい。録音も、文字起こしも、下書きの整理も。ただ、理解して整理することだけは、人間の役目として手元に残しておいたほうがいいと思っています。
使い分けのおすすめ
AIを否定したいわけではありません。わたしなりの使い分けは、こうです。
- その場では、手書きで要点だけを書く。これが本体です
- AIの文字起こしは、保険として録っておく。数字や固有名詞を確認したいときだけ開きます
- AIの要約は、鵜呑みにしない。自分のノートと突き合わせて、食い違っていたら音声を聴き直します
順番が大切です。手書きが本体で、AIが保険。ここが逆になると、冒頭のような事故が起きます。
「理解しながら書く」練習ができます
聴きながら要点を選ぶ。自分の言葉に置き換える。これは慣れが必要ですが、コツをつかめば誰にでもできるようになります。
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